オシャレで、食いしん坊で…、“いいもの”が好き。苦労して集めた美術品や骨董品だって日常使いしちゃう美意識の高い人。かと思えば、片付けはちょっと苦手で、本や資料が雪崩を起こしている部屋に気にせず人を呼んで、美味しい美味しい手料理を振る舞っちゃうらしい、ざっくばらんな方。いつだって仕事に追われていて、それでも夜まで遊んで、世界中を旅して、人知れず恋をして…。これだけでこの方がどれだけ魅力的か、けっこうわかっちゃいません? 生きていれば御年92歳。高度成長期にはまだまだ珍しかった、海外のブランドを身にまとい、青山に居をかまえた、昭和4年生まれのいい女―向田邦子さん―。
脚本家であり、小説家、エッセイストでもあった彼女が台湾旅行中の航空機事故で亡くなってから40年。先日、表参道で開催されていた“向田邦子  没後40年特別インベント・「いま、風が吹いている」”に足を運んで来ました。

 向田邦子さんは、女性の社会進出が難しいとされていた時代に編集者やラジオ番組の構成作家として活躍。やがて作家として約1000本のテレビドラマの脚本を手掛け、数々のヒット作品を生み出した、時代の寵児です。たった3作の短編小説で直木賞を受賞。1981年に飛行機事故で51歳の若さで急逝したあとも、向田さんが残した作品はもちろん、そのライフスタイルは世代を超えて共感を呼び、憧れの対象になっています。愛用品や生原稿や資料がずらりと並んだその会場には、“新しい生活様式”を強いられた私たちが参考にしたいことで溢れていました。今回のこのコラムでは、主に向田さんのファッションについて書きたいと思います。

 私は、年齢とともに洗練されていく方というのは、自分の“好き”や“似合う”を知っていて、それを追求し続ける人だと思っていますが、向田さんはまさにそう。憧れの女性の一人です。流行だけにとらわれず、独自のスタイルを持ち、普段着からよそ行きのファッションまでこだわりがある方。今でも決して色褪せない、凛とした佇まいは、やはり身につけるもの、囲まれるものすべてに妥協をすることなく貫き続けた、美意識の高さからくるものなのだと実感させられました。その洋服選びは、私たちも勉強になるのでご紹介させてください。

 自作するほど洋服が好きだったという向田さんは、同じデザイナーさんのスーツが20着、ワンピースは40着以上! 彼女が“勝負服”と呼び、仕事をする際に着ていたジャケットやパンツにシャツ、コート、スカーフなども相当な数で、しかもよく似たシルエットのものがずらり。ちなみに、会場に展示されていた服ですが、トレンチコートだけで4着、よく似たシルエットや柄のシャツ、シャツワンピースもたくさん並んでいたのが印象的。エルメススポーツのニットシャツは、色違いで4枚ありました。気に入ったものは色違いで揃える派だったみたい。写真や映像をお見受けするに、骨格タイプはストレートのよう。写真からの判断なのであくまで想像ですが、トレンチコートやシャツなどが多いのは、ストンとしたデザインのものやきちんとしたものがしっくりとくる体型だったのでしょう。向田さんのエッセイ(「勝負服」『眠る盃』)にも“勝負服は地味で、無地のセーターか、プリントなら、単純なものが好き”というようなことが書かれています。そして、生地は軽いほうが良くて、ペンを動かすときに袖が揺れたり、袖口のボタンが邪魔をしたりするようなデザインのものはだめだとも。また、身体に付かず離れずのサイズ感を好んだよう。物を書くことを生業としているからというのもあるでしょうが、ジャストサイズを好むのは、ストレート体型だからなのでは? なんて思ったり。

 先日、ある雑誌の企画で30代の働く女性たちに今のファッションについてのあれこれを取材する機会がありました。約一年前とでは日常生活はもちろん、働き方もすっかり変わりました。そうなると求めるファッションだってそれまでとは異なるもの。彼女たちによれば、リモートワークが推進され、外出の機会が減った結果、「洋服って必要ないかも」なんて思った時期を通り、今は「オシャレしてでかけたい」気分が戻ってきたとのこと。家で仕事をする時間がぐんと多くなり、通勤する必要がないから、パジャマ以上、おでかけ未満くらいの服で仕事をするかというと、そうでもなく、リモート会議があるので、パソコンの画面越しとはいえ、人の目はそれなりに気にしなくてはいけない。求めているのは、パソコンの画面に自信を持って映れる華やかさやきちんと感がありつつも、着ていて楽ちんなもの。また、堅めの企業で、通勤が多い人は、来客がぐんと減ったことで、これまでよりかっちりとした格好をしなくても良くなり、THE・コンサバな服装をする必要がなくなったのだとか。それによって、デニム通勤が許され、スニーカーも堂々とはいて出勤できるように。そんな事情とは別に、足元はヒールがマストだったコンサバ派でさえ、ヒールはほとんどはかないとの声。そう、もうみんな、無理をしたくない。じゃあカジュアルが求められているかといえば、どうやらそうでもない。いわゆる“おでかけ”の機会が減ったからこそ、そのたまにの外出は、自分を素敵に演出してくれる一張羅を楽しみたいし、洋服をたくさん必要じゃなくなったからこそ、普段着る服が“ちょっといいもの”になったそう。もちろん、その分洋服を選ぶ基準はよりシビアに。なるほど、こんな状況でも、人々は、オシャレの欲求がちゃんとあるし、買い物をするときはより慎重で、自分に似合う“it”を探している。

 向田邦子さんの話に戻しましょう。私は、自分の“好き”や“似合う”、さらには“着心地の良さ”、そして“いいもの”を追い求めていた向田さんの姿勢というのは、さきほどの取材をさせてもらった、今彼女たちが求めているものにつながると思うのです。世界がこんなことになってしまっているからこそ、好きなものを自分らしく着たい。そしてそれは自分が輝くような着こなし方をしたい。その積み重ねが素敵な女性にしてくれるのだと再認識したイベントでした。“似合うアイテム”を提案するのが私たちの使命だからこそ、2021年も骨格診断メソッドを通して、みんなで幸せになりたい。本当にそう思うのです。

 

 

美しい言葉を紡ぎ出す、向田邦子さんの小説を読み返しています。写真の小説ではありませんが、『夜中の薔薇』(講談社)の「手袋をさがす」からは、向田さんのファッションや人生への妥協なき姿勢が伝わってきて、勉強になります。

 

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棚田朋子

神奈川県出身。愛称は〝ティナ〟

光文社CLASSY.やJJなどを中心にファッションや美容ページ企画などのライターとして活躍する傍ら、骨格診断アナリスト協会(ICBI)にて骨格診断のディプロマを取得。以降〝骨格診断アナリスト〟としても活動中。